月と花束
「すみません、今日はこれで帰らせていただきたいのですが」
俺は、上司に願い出た。
上司は、例によってニヤニヤ笑いを頬に浮かべて俺を見上げる。
「なんだ、また若い子とデートか?この色男」
「……私用です」
この男、仕事はできるがどうも軽口がすぎる。
俺はそれ以上何も言わずに、曖昧に笑顔を作ると、軽く一礼して上司のデスクを離れた。
何とでも好きに言えばいい。
今日は、はずせない用があるんだ。
時は19時過ぎ。
イルミネーションがけばけばしく街を彩る時間。
俺は会社のドアをくぐると、道行く人々の間をぬって足早に歩き出した。