月と花束


この足音は、きっと――



「――瞳衣」



「……尊さん」



のろのろと振り向くと。

いつものダークカラーのスーツ姿の尊さんがそこに立っていた。


片手に持った色とりどりの華やかな花束が、月の光に照らされて輝いていた。



「……来てくれたの?」



尊さんは、穏やかで、どこか寂しげな笑みを、引き締まった頬に浮かべた。


「……おまえがいるかもしれないとは思ってた」


あたしも微笑み返す。



今日は魁人の命日。

あたしは昼過ぎからここでぼうっと時を過ごしてた。




「きれいな花束だね」


「……あいつには仏壇用の花束が全然似合わないなって思ってな」


尊さんは目を細めて微笑むと。

ふと真顔になって、黒い瞳でじっとお墓を眺めた。



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