月と花束


あたしはカバンを持って立ち上がり、スカートの土を無意識に手で払った。


何となく、二人で肩を並べて歩き出す。



「メシは食ったのか?」


穏やかな、低い声。


「……ううん」

「何なら、一緒に食いに行くか?」

「……ありがとう。でも」


あたしは首を横に振った。


「今夜は一人でいたいの」


「そう……か」

「ごめんなさい。ありがとう」


尊さんは、一瞬何か言いたげに口を開きかけたけど。

やがて、微笑んで小さくうなずいた。


「車で来たんだ。

家まで送ってやる」

「……ありがとう」



ざくざく、ざくざく、ざくざく。


二人分の足音が静かな墓地に響いて。




もう二度と動かない心臓の代わりに、それは、あらたな生命のリズムを刻み、夜のしじまの中に溶けていった。





【月と花束  完】

NNRで投票する!



前へ
この小説の表紙へ
HOME