月と花束


ふと、胸元から強烈な何かがこみあげる。


「ねぇ……もし、魁人が……」

「……?」

「魁人が、尊さんにもっと早く会ってたら……


もしかしたら……」




(魁人は死なずに済んだのかもしれない)




尊さんに救われたあたしのように。



魁人は、救われたかもしれない。



あたしは、救ってあげられなかったけど――





――思わず言葉に詰まるあたしに。


あの頃と同じように、尊さんは何も言わずに、あたしの頭にポンと大きな手を置く。


あたたかい手。



言葉はなくても。

尊さんの思いはそれだけで伝わる。




新たな涙がまたあたしの頬を伝った。

今度の涙は、少しあたたかかった。





月は空に高く上がろうとしていた。


もう遅い。

そろそろ家に帰ろう。


一人には広すぎる、あの部屋へ。



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