クロッシング


「メイちゃん、今日はもう上がっていいよ」


二人の会話を聞いていたらしいマスターの声が、突然奥からした。


「え、いいんですか?」

「うん、今日はヒマだし、もういいよ。お疲れ」

「わぁ、ありがとうございます!」

「また明日、よろしくね」


(なんだ、マスターも牧場育ちか?)


店のエプロンを外して上着を引っ掛け、カバン片手に奥から飛ぶように出てきたところを、すっと並んで歩く。


「メイ、ってどういう字書くの?」

「……えっと、瞳に衣って書くの」

「そうなんだ。かわいい名前だね」

「……ありがとう。……えっと」


「魁人って呼んで」


「魁…人さん」


細い肩を抱いた。


「あっちにさ、ライトアップがあるの知ってる?ちょっと行ってみない?」

「行きたい!」


飛び跳ねんばかりに喜ぶ、晴れやかな笑顔がかわいかった。



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