あいつ不感症なんだよな
「あいつさぁ、不感症なんだよな」
部室のドアがガチャッと開く音がして。
聞き慣れた声が不満そうにそう言うのが聞こえた。
(……え?)
ここは女子テニス部の部室。
男子テニス部の部室とは、ドアが共通でロッカーで仕切ってあるだけ。
もちろん声は筒抜け。
……颯太(そうた)ってば。
あたしがここにいることに気付いてないんだ。
「やってる間じゅう完全マグロ状態でさ」
男テニの部室から声が聞こえる。
あたしは思わず息をひそめた。
「声も出さねぇし、反応もねぇし」
(颯太、何言ってんのよ……)
当のあたしがここにいるのも知らずに。
(誰と話してんの?)
あたしはしかし、どうすることもできずに、自分の付き合ってる人があたしの悪口をくどくど言ってるのに、ただ聞き耳を立ててた。