クロッシング


とっくに家を出て、あちこち転々として。

生きる意味もわからないまま、ただその日その日を生きるためだけにさまよってた頃。


……今でも生きる意味なんてわからないけれど。


働いてたショーパブをやめた頃かもな。小指がないオーナーの店だった。


(こんな世界があるなんて、あの子は想像だにしないだろうな)


一生触れることもないのかもしれない。


裏の世界を知ってる奇妙な優越感が沸いて、思わず苦笑する。

劣等感の裏返しってやつかもしれないな。



ウェイトレスがトレイにコーヒーを乗せて、ふたたびこちらへやってくるのが見えた。

頬を赤く染めて、戸惑ってる。


(――意外に脈ありそうだな、この子)


ついでに引っ掛けとくか。

数万レベルでもいいや。

何なら店に売り飛ばしてもいい。この子ならカネになる。



「どうぞ」


丁寧にテーブルを置く手を、また捕まえた。

小さな手のひらにメモをつかませて、両手で丁寧に包む。



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