クロッシング


「よかったら電話して」

「え?」

「待ってるから」


まず掛けてこないだろうけど。


……別に掛けて来なくてもいい。

バイト先がわかってるなんて、カゴの中の鳥みたいなものだから。

あとは好きなときに羽をむしるだけだ。





席を立った女が、オレのテーブルの横をゆっくりと通って行った。

誘うように。

素知らぬふりをしてタバコを吹かす。


女が会計を済ませてドアをくぐるのを見届けると、吸いかけのタバコを灰皿に押し付けてのんびりと立ち上がった。

女が窓の外からちらりとこっちを振り返るのが見えた。


(――さてと。ご出勤だ)


レジに札を置くと。

ついでにウェイトレスの子の肩にそっと手を回して、耳元でささやいた。



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