クロッシング


「メイちゃん。

電話、待ってるからね」

「え?」


突然名前を呼ばれて、驚いて茶色い大きな目を見開く。


「……また来るから」


そう言い残すと、後ろ手に手を振って店を出た。





声をかけた女は、案の定ムッとしていた。


「あのウェイトレスの子がいいんじゃないの?」

「……なんだ、嫉妬してんの?光栄だな」

「興味ないなら声掛けないでよね」


言葉とはうらはらに、媚びの混じった声。

声を掛けられるのを待ってたくせに。


――女は面倒くさい。


「お客さんは声を掛ければ喜んで簡単についてくる」

「2回めからも電話入れれば飛んでくる」


そう知り合いのホステスの女たちは口をそろえて言う。


女を相手にすると途端に話が複雑になる。



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