クロッシング


夢のような光のトンネルを抜ける直前。

不意にケータイが鳴った。


「あ、ママからだ。

はーい……え、もうこんな時間?

わかった、帰る」


ふくれっツラでカバンの中にケータイを放り込んで。


「ごめんなさい、あたしもう帰らなきゃ」

「そっか」

「あの……実はね」

「……?」


恥ずかしそうに、頬を赤らめて。


「前から素敵な人だなって思ってたの」

「……」

「今日はありがとう。

あたしなんかを誘ってくれて。

うれしかった。じゃ、またね」


にっこり笑ってぴょこんとお辞儀して。

手を振る華奢な肩を、思わず両手でそっと抱えてた。



「きゃ――」



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