呪い殺して -ウォーターカラーズ 番外編-


「本当の愛じゃないと口で言うのは簡単だけど、実際はそうなっちゃうんじゃないのかな。

愛するがゆえに、恨みに変わるのはごく簡単に起こり得ることだから。

表裏だからね、愛と憎しみは」


意外な答えだった。

智弘さんだったらきっと「そうだね」って言うと思っていたのに。


「だってね。

いくら愛していても、例えば他の男へ走って自分のもとを去った時、恨まずにただ愛し続けるのは難しいんじゃないかな」

「……そうね。あんまり具体的に考えてなかった」


わたしは折れた。


(確かに、智弘さんに去られたら気が狂っちゃいそう)


智弘さんのつやつやした黒い髪を指でくしけずって、首をそっと抱き寄せる。

合わせた唇が、徐々に首筋に降りていく。


智弘さんの心地良い重みを感じながら。

智弘さんの言葉について考えてた。


もし智弘さんがわたしから去ったら、呪い殺してしまうかも。

わたしが去ったら、智弘さんはわたしを呪い殺してくれるかな。




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