小さな芽


「言われなくても降ろしてあげる」


ふわりと降ろされたのは、リビングのソファの上。

鷹耶のひどく整った顔が影になって、近づいてくる。

ほんのり笑みを浮かべながら。


――腹の立つ、余裕の微笑。


「……」

あたしは思わず顔をそむけてた。


昨日も女の子と歩いているのを見たもの。

こういうことがしたいなら、その子とすればいいのに。


鷹耶のゲームに付き合うのはもうたくさん。

これ以上あたしを巻き込まないでよ。


「……何むくれてんの?」


笑いを含んだ、からかうような声。


「むくれてるのもそそるね」


頬を両手で挟んで正面に向ける。

眼が合った。


「……そういう作戦?」

「そんなワケ……んん」


合わされた唇の中に言葉が消えていく。



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