「あたし、センパイに名前も覚えてもらってないと思ってました……」
ビールの勢いでか、つい口から出てしまう。
「……何言ってんの。
毬香のことは、入部当初からちゃあんと知ってるよ」
「……え?」
どうして?
あんなに部員いっぱいいるのに。
あたしは背もたれにだらんともたれかかってるセンパイを振り返った。
「つーか、センパイってのやめろっつーの」
「じゃああの……えっと……凌さん」
凌は手に持ったビールの缶をじぃっと見つめてた。
何を考えているのかわからない。
「あ、そろそろスタンバイしなきゃ。この次だ」
凌は突然立ち上がると、あたしの手をとった。
腰に凌の手がさっと回され、廊下を歩く。
(うわ……)
なんか、はずかし……。
廊下の先はカーテンで仕切ってあった。
「関係者以外立ち入り禁止」の札がかかってる。
「ここステージの控え室だから」
凌はさっとカーテンを開けた。